胸郭出口症候群に対する保存療法(手術以外の治療)として、鍼治療は有効な方法の1つです。
胸郭出口症候群は胸郭出口部における神経血管束(神経、動脈、静脈)の圧迫や牽引によって頸肩部、上肢(腕、手)に痛みやしびれが出現する病気です。
胸郭出口部とは?
→側頸部(首の横側)と前胸部にある神経血管束が通過する生理的狭窄部(元々の構造上、狭い部位)で、斜角筋三角部、肋鎖間隙、小胸筋部があり、これ以外に、先天性の骨奇形(頸肋)によるものもあります。
特に、神経は圧迫や牽引などの絞扼に弱く、循環(血流)に支障を来すため、胸郭出口症候群は末梢神経障害の1つと考えられています。
鍼治療は、障害された神経への直接的な刺激による神経血流の改善や、圧迫の原因となる筋肉への刺激による筋弛緩作用により、症状を改善します。
※鍼による神経血流の改善については、『脊柱管狭窄症に対する鍼治療について』 『頸部神経根症に対する鍼治療について』などをご参照ください。
胸郭出口症候群の病態(実験的に病気の状態にした)モデルにおいて、筋肉の過緊張を取り除くことにより、末梢循環(動脈血流)を改善する事実を確かめた実験研究があります。
病態モデル(CONT)では血流が低下する一方、絞扼原因の筋肉に鍼をすると血流が増加します。
病態モデルで絞扼の原因とした小胸筋部に鍼刺激をすると、絞扼により低下するはずの絞扼部より末梢(手首)の動脈血流が増加(改善)することが示されています。