再生を要する末梢神経障害には、一定の条件下での鍼通電療法が有効です。
末梢神経障害は、外傷(けが)や退行変性疾患(脊柱管狭窄症などの加齢によって起こる病気)の他、糖尿病や自己免疫疾患(CIDPなど、免疫異常により自己の神経を攻撃する病気)、薬剤の副作用など、様々な原因で起こります。 中枢神経(脳、脊髄)は再生しませんが、末梢神経(脳神経、脊髄神経)は状況によっては再生します。
末梢神経障害は損傷の程度によって、神経の再生を必要とする場合と必要としない場合があります。
再生を要する場合、神経の1本1本(軸索)を魚肉ソーセージに例えると、魚肉を包む袋(軸索を包む膜)がちぎれていなければ、魚肉が潰れていても修復(再生)可能です。 袋ごと千切れてしまうと、縫合(手術)しなければ再生しません。
再生する状況であっても、末梢神経の再生速度は1日1mmと言われています。
例えば、肘のところで損傷したら手(指先)までいくのにどれだけかかるの?…とても遅いですよね。 再生するまでに長期間かかると、場合によっては効果器(神経がたどり着く目的の組織、運動を司る神経なら筋肉など)がダメになってしまい、いざ神経が再生しても、意味をなさなくなってしまう(臨床的な回復が望めない)こともあります。
末梢神経の再生は、ある条件下での電気刺激により促進(再生を早める)されます。
そして、鍼を用いることにより、損傷した神経に安全かつ効率的に電気刺激を与えることができます。
※一般的な鍼(刺鍼のみ)では神経再生の促進効果は見込めず、一般的な鍼通電(交流電流)は促進を遅延させる(遅らせる)可能性もあります。
再生を要する末梢神経損傷モデルを用いて、特殊な条件での鍼通電(直流電流)の神経再生に対する促進効果を検証した実験と、臨床試験(実際の患者さんを対象とした研究)の結果を報告したものがあります。
末梢を陰極とした直流鍼通電のみ神経の再生が促進されることが示されています。
病態(末梢神経障害)モデルを用いた実験において、神経の損傷部を挟んで神経に直流鍼通電刺激(末梢陰極)を与えると、神経の再生が促進されることが明らかになっています。
ちなみに、電気の極性を反転(末梢陽極)させた鍼通電は、むしろ再生が遅延する(遅れる)ことが示されています(むやみやたらに鍼通電をするべきではないということです)。
直流鍼通電によっていくつかのサイトカイン(再生に必要な因子)が増加することが分かっています。
末梢陰極直流鍼通電による神経再生促進作用について、どのようなサイトカイン(神経の再生に必要な因子)が関わっているかということも一部明らかになっています。
実際の患者さんにおいても直流鍼通電により、筋力up、関節可動域の拡大、再生筋電図など神経の再生を示す所見が確認されています。
再生が難しいと判断された患者さんにおいても、直流鍼通電を行った結果、各検査で神経の再生を示す所見が得られています。