切迫性尿失禁には仙骨部(おしりの骨辺り)への鍼刺激が効果的です。
尿漏れは症状によっていくつかに分類され、急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、我慢できずに漏れてしまうタイプを切迫性尿失禁と言います。
尿意切迫感、切迫性尿失禁、頻尿を主な症状とするのが過活動膀胱です。
過活動膀胱は、男性では前立腺肥大症、女性では骨盤臓器脱などの他、脳や脊髄の病気(脳梗塞、パーキンソン病、脊髄損傷、脊柱管狭窄症など)が原因となる場合もありますが、原因がはっきりしないケースも多く、膀胱機能の低下も一因と考えられ、加齢に伴い発症率が高くなることが知られています。
尿閉(尿が出なくなること)とは異なり、命に関わる症状ではありませんが、程度によっては外出がままならなくなるなど、Quality of life(QOL:生活の質)を著しく低下させることもあります。
服薬(抗コリン薬)や注射(ボツリヌス毒素注射)などの保存療法が効かない場合には、手術で排尿に関連する仙骨神経への電気刺激を目的として装置を埋め込むこともあります。
電気刺激装置は経年的に入れ替えを要する他、埋め込みによる感染や埋め込んだ部位の痛みを伴うなどのリスクもあるため、気軽に行える治療とは言い難いのが現状です。
仙骨神経への刺激・・・実はこれ、鍼治療でも行うことができます。鍼治療は装置の埋め込みなどをすることなく、電気刺激を与えることも可能です。
仙骨神経支配領域への鍼刺激が過活動膀胱に効果的であることを確認した研究結果が示されています。
中髎穴:仙骨(おしりの骨)辺りにあるツボで、この部位は仙骨神経が支配しています。
鍼治療を行うことにより、膀胱機能の改善を認めます。
この研究では、4~12回の鍼治療で78%の患者さんにおいて切迫性尿失禁の消失または回数の減少が見られました。
頻尿や尿漏れなど排尿障害に対する鍼治療は様々あり、四肢(手足)の経穴(ツボ)への鍼や鍼通電の効果を示す報告も散見されますが、それらの改善率と比較して見ても、仙骨部への鍼刺激は高い効果を示しています。
その理由としては、排尿中枢は仙髄にあり、仙骨部への刺鍼は仙髄から出る仙骨神経への刺激となることから、種々の排尿障害に対して有効に作用するものと推測されます。
現在のところ、仙骨部への鍼治療の効果が確認されているのは切迫性尿失禁に対するものですが、仙骨神経からの枝(陰部神経)が支配する骨盤底筋群の筋循環などに影響する結果、トレーニングの効果を増大し、腹圧性尿失禁にも良好な作用をもたらす可能性も期待できます。
※腹圧性尿失禁とは…咳やくしゃみ、スポーツなど強い腹圧がかかった際に起こる尿漏れ